こんなパルフェは熱くて死ぬぜ『仁〜交渉人』


『君はこの私と交渉するためだけに、この店とブリックモールを全面戦争に追いやったと言うのか?
 しかも自分からこちらの網にかかったと?』
『はいっ』
『そこまで君を突き動かす力はなんだい?』
『あなたこそどうなんですか?
 ブリックモールが大資本企業を後ろ盾に持っている以上、この後このアンティークショップが
 生き残れる保証はどこにもない。
 そんな不利な状況下でどうしてブリックモールにとどまり闘っているんですか?』
『私は「ブリックモール構成員」として闘っている。君は構成員などいないといったな。
 だが中世ヨーロッパの伝統と格式をまもりながら今日の繁栄をもたらした魂こそが
 「ブリックモール構成員」、です。
 たとえそれが私達のように裏を歩く人間でもです。
 私は自分を信じてついてくる者を裏切らない、それだけですよ』
『今苦しんでいる私の部下も「ブリックモール構成員」です』
『…………聞こう』
『あなたはアンティークピアノの売却を求めていますね』
『それは君の推理ですね』
『違いますか?』
『主だった骨董品も含めての話です。名の知られた商品は早々おいそれとは売り捌く事はできませんからね』
『だが交渉は難航している』
『どうしてそう思う』
『交渉が成立しているなら僕を生かしておく意味がない』
『それに賭けたのですか。なんて男ですか、私の手違い一つで死んでいたんですよ』
『この状況であなたが手違いを冒すはずがない』
『それはまたえらく信用されたものですね』
『もし自分が交渉する相手の力を測りそこねたらそこまで、僕はプロです』
『そこまでわかっているなら、ピアノの売却について何らかの方策を持っているんでしょうね』
『もちろんです』


・・
・・・

『アンティークピアノを僕に貸していただけませんか?』
『どうする気ですか?』
『イブに風美由飛に弾かせます』
!!
『そんな事をしたらどうなるかわかって言ってるんでしょうね。
 アンティークピアノの稀少価値は落ち、あのピアノはピアノでなくなるんですよ』
『僕もそう思います』
『!』
『ですからそうならないために、ブリックモールそのものを脅迫します』
『なるほどな、その手があったか。
 勝算はあるのか?』
『あります』
『………………わかった』


・・
・・・

『静かなところでしょう。ブリックモールの雑踏とは別世界です』
『ですがやけに静かすぎませんか?』
『………………』
『朝から一人も従業員に会っていない』
ニッ
『流石ですね、あなたにかかればこの町でできないことは何もない』
『私のやり方では不服ですか?』
『別に』
『………………』
『それよりもあなたにひとつ謝らなくてはならない事があります。
 お預かりしていたアンティークピアノの売却話は無効になりました』
『ほおっ』
『売却の話をしたらひどく怒られました』
『一時はピアノが弾けなかった女にか?』
『僕は彼女が再びピアノが弾けるよう依頼されました。
 依頼人が了承するまで契約は生きています。たとえ相手がピアノを弾けなくても』
『馬鹿な生き方ですね』
『お互いに』
『ピアノ、および他の骨董品の購入希望客リストです』
『連中が動けば話は早いな』


『私たちはいつまでブリックモールにい続けられると思います』
『わかりません。
 でも確かなのはこれからのブリックモールを支えるのも我々従業員だということです』
『……………』
ビッビッビッ
『我々が我々であり続けるために
 私達は自分の力で販売していきます』