挑発する声の冷たさが形となったかのように、刺された武器の表面に霜が白く張る。
同時にガラス壷の中から、すう、と氷の粒が舞い始めた。数秒の内に、氷の粒は吹雪のように
渦を巻き、壷を浮き上らせてゆく。
「お、お二方とも、どうか落ち着いてください!」
モレクが慌てて両者の間に入ろうとする。
(馬鹿が!何度打ち砕かれれば気が済む……!!)
その、容易に己が身を捨てる宰相のやり方を、チェルノボーグは心中で罵った。
見かけなど飾りに過ぎない、異常な大きさと規模の力を持つ彼は、揉め事があった場合、
自らの骨体を壊させ砕かせることで、当事者間にある鬱憤を晴らす。
意味や効果は分かっていた。が、それでも彼女はモレクのやり方が気に喰わない。
(お前がそうだから、こいつらも甘えて、いつまでも幼稚ないざこざを起こ――)
刹那、
岩を削る根、風に舞う氷、触れかけた双方の間に、一条の虹が迸った。
爆発とも破裂音とも付かない衝撃音が辺りに木霊し、鮮烈な七色の光が一同の目を焼く。
「貴公ら、新たな居城へと胸躍らし参られる主を、無様な内紛で出迎え、あ……」
イルヤンカの足にもたれ、昼寝に興じていた男が、七色の破壊光
――当代最強を誇る攻撃系自在法『虹天剣』――を発した剣を突きつけて、静かに言ったセリフは自らの声で遮られた。
地に深々と刺さった『虹天剣』の痕にはバラバラになった牛骨が散乱していた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……!」「……!」「……!」
物凄く気まずい空気の中、当の犯人は目にも留まらぬ速さで剣を腰間の鞘へと収め、明後日の方向を向くと再び目を瞑っていた。
(おいコラ、そこのキザ男、何知らん振りしてる)
チェルノボーグは平然と腕を組んだまま、それでも内心は激しく突っ込みをいれていた。
(寝た振りするな、バレバレだ。あの卵がなにも言わないんだぞ、ちょっとまずくないか、コラ、
口の端がヒクヒクしてるじゃないか、とっとと起きろ)
心配を感づかれてはならないとあえて無表情を装うも、
より顰めっ面が強調され不機嫌さが増しているようにしか見えなかった。
その時、
「ちゅ、仲裁に感謝いたします、メリヒム殿」
と謝辞を入れる、ようやく復帰したモレク。
(仲裁じゃないだろ、思いっきり直撃してただろうが、怒れよ痩せ牛、ここは怒ってもいい場所だぞ。
で、そこのキザ男も寝た振りするな、イルヤンカの足に頬擦りしながら寝言いうな、
マチルダ〜じゃねぇよ、しかも敵じゃねーかアイツは)
…
…
こうして入城式典を巡る争いは幕を下ろした。
ここでのやりとりが『大戦』の集結に影響を及ぼしたかは、定かではない。