HMX-17α イルファ編

「うちはよう腕相撲して遊んでもろうてた。
 勝負はいつもイルファの負けやった。」



       「女、手前に用がある。
       「おかしなメイド姿の女が―――
        朝からずっと俺達のことを
        嗅ぎ回ってると聞いたンでな。
        組員総出でお出迎えに上がったってわけだがよ。」



「あの日もうちは、腕相撲につきおうてもろうてた。
 うちはまったく気付かへんかったけれど、
 マフィアのアホどもが敷地に入って悪さしようとしててん。」



       「…ハリウッドの時代劇でしか見れねえような、イカれた格好だ。
        そんな服着て街中歩いてりゃ、どんなバカでも記憶に残らァ。
        何者だ、一体何が目的だ?」



「結局あとで聞いたんやけど、イルファだけは気付いてたみてん。
 連中が入り込んだのを見つけた瞬間彼女は固まり―――
 うちはいつもと同じ力でイルファを倒そうとしてたのに、
 腕はまるで鋼のようやった。



 その時わかった。
 イルファはわざと負けてんねん。
 弱いメイドロボの振りをせなあかん理由があったんやって、ね。」



        「……見つけていただくのがこちらの本意にございます。
         私めは姫百合家の使用人にございます。
         お聞きしたい事がいくつか。
         …失礼ながら―――
         少々御無礼を働く事になるかと。
         なお、今しがたとても不愉快な出来事がございまして。
         手加減のほうはできかねますので、
         一つ御容赦を。」


        
        「……ははッ。
         聞いたかよ、おい。
         御無礼を働くとよ、このアマ!
         お笑いだぜ!なあ!
         どうするってんだよ姉ちゃん!」



         チャカッ 
         ジャキッ
        


         「―――では、
ご堪能くださいまし。」



      バンッ
 
       

「……………イ………………」
「?」
イルファや」
「何ィィィィィィィィィィィ!!」



「ご主人様、こちらが姫百合一家の資料にございます。
 来栖川メカニクス基本設計者、
 写っているのは当代の珊瑚と瑠璃の双子姉妹、
 そして唯一の使用人であります。」



「……………良くないな、こいつの目は。
 気にいらん。」



「ダニエル、こいつの目を見ろ、何か気付かんか?」
「……………メイドロボですな。」



「正解だ、ダニエル。しかもそれだけじゃない。
 こいつはとびきりの狂犬だよ。」



(中略)



「瑠璃様…………」



「イ、イルファ。」



「こんな所にいらしたのですね、瑠璃様。
 珊瑚様も、大変心配なさっておられますよ。」



「……………」



「…怖がられるのも仕方ありませんね…
 理由はいずれ御説明いたします。
 私は所用が残っております由、少々お待ちを
 …その方々は?」



イルファ!待って!!」



「下がりなさい、メイドロボ。
 ここにいる全員が、死んでいるより生きているほうが好きなはずです。
 あなただってそうでしょう?」



タマ姉、それじゃあ悪役だ!!」



「タカ坊は黙ってなさい!



 無理な撃ち合いしなければ、あなたのご主人は五体満足で家に帰れる。
 床に脳をぶち撒かずにね、わかります?」



「……考えております。



 ………ご意向には添えかねます。
 瑠璃様には五体満足でお戻りいただきますが―――
 姫百合家の家訓を守り、仕事をさせていただきますわ。



 Una vendicion por vivos, (生者のために施しを、)
 una rama de flor por los muertos.(死者のためには花束を。)
 Con una espada por la justicia, (正義のために剣を持ち、)
 una castigo de muerte para los malvados. (悪漢共には死の制裁を。)
 Asf llegaremos――― (しかして我ら―――)
 en el altar de los santos. (聖者の列に加わらん。)



 来栖川の名に誓い、
 全ての不義に鉄槌を。
」