『す、すみません!?』
俺は思わず身を引き、ハシゴから手を放してしまう。
だけど、そのせいハシゴは不自然なバランスで立っていた先輩を支えきれず、傾き始めた。
『あ――』
先輩は慌てて壁にしがみつこうとするが、掴むところがなく、壁から遠ざかってしまう。
『きゃうっ!』
『先輩ーっ!!』
ま、まずいっ!
俺はとっさに前へ身を乗り出した。
『――』
『――』
や、やばかった――。
俺は先輩の身体を地面に叩きつけられるのからしっかり守った。
間一髪である。
『先輩、大丈夫ですか?』
俺は念のために、先輩にそう尋ねた。すると――。
『だ、大丈――あん!』
あん?
あんってなに?あんこ?アンパンかお饅頭でもあったかな?
いや――なんとなくある気がしてきた。だって。
ぽよん。
って。
手の中にはふかふかな感触。やけにリアルな手触りだ。
だけどこの感触――遠い記憶の中でしか体験したことのない懐かしさ溢れてる。
これっていったい――。
俺は確かめるように、なんども握り締めた。
『あ、いや――河野さん――』
どうして、先輩が反応するんだ?だってこれは――。
『人が倒れそうだよ、千堂さん』
あれ?まさかと思うけど――。
『あうぅ――河野さん!?』
うっ、わぁー!?
こ、このふかふかとした感触って、ま、まさかせ、先輩のお、お、おっぱ――。
『あ――やぁ』
うわー!うわー!女の子の胸って、こんな感じだったんだーっ!?
『河野さん!?そこ握っちゃダメぇ!?』
『に、握っちゃダメって――』
握らないと先輩の身体が支えきれなくなってって!?
『だから、ダメなのぉ――!?』
普段なら絶対にありえない先輩の感情に満ち溢れた声が中庭に響き渡る。
『交代だ』
『ちょ、ちょっと…』
『心配しなくていいよ。千堂さんは、一流の――
エロゲー主人公だから。』
―――え?
『!………ちょっ…ちょっと…!!』
『ぬッ!』
『うう〜、バカぁ、バカぁっ』
わわわっ!誰がどう見ても抱きついてるーっ!!
ついには先輩は泣きそうな声をあげる。
『河野さんのバカーっ!!』
……!!
―――俺のせいに、なってる…
『へぇ―― 揉む事でフラグを立てたんだ…』
『厳密に言えば違う…藤田君。
胸を揉んだ場合、心臓にはパンを咥えて登校中出会い頭にぶつかり、
その後教室でぶつかった相手が実は転校生だったとわかった時の約十倍、
10ジュールの電流が流れる。その電流でフラグ成立と同じ効果を与えたのだ。
もっともとっさに揉まないと効果はない。
ためらっている時間はないんだよ……君』
すげえ…!
エロゲでも何度か出会い頭に胸を揉むシーンを見たけど…
成功してフラグを立てたところなんか見たことないぞ…!!
古典エロゲの中だけのシーンだと思っていた―――!!
『君は、リーフ東京開発室の主人公か?』
『は、はい。「To Heart2」の河野です。』
『では、いずれまた会う事になるだろう。
年末に発売した、PSPの「こみっくパーティーポータブル」に出ている
千堂和樹だ』